東 雑記帳 - 正真正銘の日本産アサリ

東 雑記帳 - 正真正銘の日本産アサリ

熊本の産地偽装アサリは、ひどかった、とつくづく思う。
十年以上になるか、ずっと熊本産だと信じて食べてきたのだから。いつ頃からか、スーパーで売っているのはたいていが熊本産で、北海道産がたまにある、と家の者が言っていた。
食べるたびに「熊本産はおいしいよね」と喜んでいたが、自分はさほどおいしいとは思わなかった。
が、しかし、「たいしておいしくないし、生きもよくないよ」とくさして、気分を害されては困るので、「そうだね」と相づちを打っていた。

偽装が白日のもとにさらされてから、スーパーには中国産が並ぶようになったが、売れないので売り場で見ることはめっきり減った。
そして、国産は出てこないままだった。先の子供の頃の貝汁のエピソードを書いたが、実は今月七月十日頃、愛知産がコープで売られるようになっていた。活アサリ、粒は小さいが、生きはよく、久しぶりに味噌汁にして食べたらおいしかった。

そして、それから1週間後、別のスーパーに三重県鈴鹿産のアサリが売り場に並んだ。大きな張り紙に、「正真正銘の日本産 三重県鈴鹿産のアサリ」と大書してある。
二、三日後、三重県鈴鹿産のアサリはコープでも売られていた。
家の者がコープで買ってきたが、さきの愛知産より少し粒は大きい。生きもよく、夕食の汁にアサリの味噌汁をつくり、
「おいしいね」「おいしいね」と、喜び、機嫌良く食べた。

それにしても、「正真正銘の日本産」とは、いったいなんというコピーなんだ!?
それじゃあ、これまで、正真正銘ではない日本産を売っていたというのか。これからも売ることがあるのか。と、因縁を付けたくなるではないか。
それに、日本産に正真正銘というクレジットを付けるなら、その脇に並んで売られている中国産アサリにも、「正真正銘の中国産」と記したポップを立ててやるべきではないか。それが公平というものではないか。
もとより、熊本県以外で熊本産アサリとして売られているアサリが実は中国産であることは、スーパーは知っていて売っていたのではないか。知らぬは消費者のみ、知らぬが仏だったのだろ。
などと、ほろ酔いの頭で思うと、だんだんくどくなっていった。ただ、思うだけのことだったけど。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。