東 雑記帳 - 小食と少食、どちらが正しい表記?

東 雑記帳 - 小食と少食、どちらが正しい表記?

「食べる量が少ない」意の言葉「しょうしょく」を辞書で調べると、「小食・少食」の見出しが立っている。二つの漢字表記が並立している。今の辞書はだいたいそうなっている。
本来は「小食」が正しく、「少食」は存在しなかった。辞書の見出しも、「小食」のみだった。
それが「少食」を見かけるようになったのは、一九九〇年代に入ってからだっただろうか。
健康雑誌等、健康関係の記事に見かけるようになった。とはいえ、新聞は「小食」を使用していた。
手元にある辞書のうち、平成二年(一九九〇)に刊行した旺文社の『国語総合辞典』は「小食・少食」となっている。

大阪の甲田光雄医師(甲田医院院長)を初めて取材したのは、平成二年(一九九〇)か平成三年(一九九一)だったと思う。甲田医師は、西式健康法を基盤にして、野菜をすりつぶして飲む青汁を考案し、小食や断食を患者に指導し、病気の治療や予防に成果を上げていた。小食を食事療法として体系化したのは甲田医師が初めてだったのではないか。一日二食の小食で、野菜を生で摂取し、主食は玄米というのが基本であった。

甲田医師には何回も取材を続けることになったが、甲田医師が必ず「少食」という表記を使うのがずっと気になっていた。そして、「少食」という表記は甲田医師が用い始めたのではないかと思い、あるとき、「少食という表記は先生が使い始めたのですか」と単刀直入にたずねたところ、笑みを浮かべながら、
「そうです。このほうが食べ過ぎない、できるだけ少しの食事ですませることの感じがよく出るので、少食という表記を使うことにしました」
すでに甲田医師は現代栄養学とは別の食事療法の分野で知られ、健康雑誌などでたびたび登場し、著書のタイトルにも「少食」が付いているものもあった。
少食という表記は、甲田医師が意図して用い、それが広まり、やがて辞書で正字として見出しに載るようになったというわけである。
今では「少食」が「小食」をすっかり制圧してしまっている。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。