東 雑記帳 - 「ちょうだい、ちょうだい」は本来、女性・子供の言葉だった!?

東 雑記帳 - 「ちょうだい、ちょうだい」は本来、女性・子供の言葉だった!?

いつ頃からか、飲食店で酒を注文するのに、「ビール、ちょうだい」という言い方が聞かれるようになったと思っていたら、今では普通に使うようになった。大の大人の男が、「ちょうだい」と言う。最初の頃は、「男がちょうだい、なんて言うのか。軟弱な言葉遣いだ」と思ったりしたが、使う人によってはかわいらしさを感じたりした。
「ビール、生(なま)二つ、ちょうだい」
「こっちは、たこキムチ、ちょうだい」

「ちょうだい」は辞書にあたると、次のように説明されている。

1 もらうこと、また、もらって飲食することをへりくだっていう語。「結構なお品を──いたしました」「お叱りを──する」「もう十分──しました」

2 (多く、女性・子供の用いる語)
(ア)物を与えてくれ、また、売ってくれという命令の意を、親しみの気持ちをこめて促すようにいう語。ください。「それを──」「牛肉五〇〇グラム──」
(イ)「……てちょうだい」の形で補助動詞の命令形のように用いて、相手に何かをしてもらうのを促す気持ちを、親しみをこめていう語。「その新聞をとって──」

女性や子供の言葉というのは2で、(ア)と(イ)のうち、印象としては(イ)が強い。
「ねえ、あなた。冬のボーナスが出たら、冷蔵庫、新しいのに買い換えてちょうだい」
「ねえ、パパ、今度の連休、ディズニーランドに行きたいの。めずらしいアトラクションがあるから。絶対連れて行ってちょうだい。お願い!」
ねだる場合に使うと威力を発揮したのだろう。子供の言葉というが、男の子は使わなかった。
とはいえ、物売りの世界では、女性が「ねえ、買って、買って。買ってちょうだい」と、せがむのを見かけることがあった。男は、「ちょうだい」とはいわなかった。

ネットを検索すると、「ちょうだいは女性、子供の言葉」ということに対し、「ビジネスの場でも、『このたびは結構なお品をちょうだいいたしまして……』などと使っているではないか」と反論するのを見かけるが、これは先の説明の1と2を混同しているのだろう。

過去をふりかえるに、かつて男は「ちょうだい」を使わない場合、何と言って注文していたのか。多くは、「ビール」「酒、お燗つけて」などと、言い切っていた。あるいは、「ビールをもらおうか」という言い方もあったが、これは酒場の経験を多少積んだ者が言うと似つかわしい言葉であった。

ちなみに、大阪はどうなのかと思って五、六年前、大阪生まれ、大阪育ち、大阪在住の先輩に聞いたところ、「今は若い人は、『ちょうだい』って言うなあ」
その先輩はどう言うかというと、昔も今も「おくれ」で、「ビール、おくれ」と言っていた。

とはいえ、「ちょうだい」を使い慣れると、これは肩肘張らない言葉なので、気持ちの上で非常に楽だとわかってきた。

付け加えると、今の若いおかあさんや女の子は、おとうさんに向かって、「○○してちょうだい」と言って、ねだるのだろうか。それとも、こういう言い方はあまりしなくなったのだろうか。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。