東 雑記帳 - 30億円の隠し財産、埋め替える場所に悩む日々の男

東 雑記帳 - 30億円の隠し財産、埋め替える場所に悩む日々の男

その、元、まともではない筋の男はこう言った。
「バブルの頃に地上げで一儲けしたが、何年かたっていろいろ危なくなってきたので東京を離れ、東京近郊のこの町に来た」
他の男が言うには、3億円を持って逃げてきたという。
逃げてきた男Sは、ほとんどカネを使わないで生きている。使うのは、100円のマックのコーヒーのみ。そこでギャンブル仲間と歓談する毎日。若い者に券を買いに走らす。
競馬歴は長いらしく、たまに穴を当てるが、仲間にお裾分けをする。しかし、仲間が当ててお裾分けしようとすると、絶対に受け取らないが、このことからも堅気ではなかったことがうかがえる。

Sがあるとき、こういった。
「昔の仲間に30億円荒稼ぎした後、堅気になって地方に逃げたやつがいるけどのお。こいつは、庭に30億を埋めているが、心配でたまらんので、しょっちゅう、埋める場所を替えている。次はどこに埋め替えようか、頭が痛いって、ぼやいとった」

よからぬ方法で儲けたカネで、もちろん税金は払っているはずがない。とすると、もし盗まれても警察に訴え出ることはできない。そう思って、
「だったらSさん、そのカネを取ればいいじゃない。盗まれたって警察に届けたりしないだろうから」と言ったところ、Sは困ったような、複雑な表情を浮かべて何も答えなかった。内心、どう思ったのか。
元そのスジの人をからかうようなことを言ってまずかったかなとも思ったが、ウソ笑いをしてそれでこの話を切り上げたのだった。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。