東 雑記帳 - 電車の中で新聞を読む人がいなくなった

東 雑記帳 - 電車の中で新聞を読む人がいなくなった

何十年も前から、電車に乗ると新聞を読むのが楽しみで、今もその習慣は変わらない。
いつ頃からか、電車の中で新聞を読む人がめっきり減った。かつては、出勤の満員電車の中で立っていても、折りたたんだ新聞を器用に読む人は多くいた。
もちろん、座席で新聞を読むのはごく普通のことで、新聞を広げている手が隣で同様に新聞を広げている手とぶつかる。
席に着くや足を広げ、上体を反らせ、両腕を広げ、肘を張って、自分の縄張りをつくろうとするやつもいた。
こういう身勝手な行儀知らずのやつの隣に座ってしまうと、不快なこと極まりない。新聞はおろか、肘までもが、こちらの顔の前に来る。
まして、新聞を広げて読もうとすると、どうなるのか。互いに肘を張り、肘でこづき合う小競り合いになったりする。

それに比べて、現代は新聞を読む人はめっきり見かけなくなった。
そして、ほとんどの人がスマホをしている。スマホをいじっていないのは、眠っていない人だけである。
お見合い席のこちら側と向かい側の14人のうち、新聞を読んでいるのは自分一人という状況は居心地がよくない。日本の電車の社内は静かで、多くの人はスマホをいじっている。
広げるという行為に加え、新聞はたたんだり広げたりするたびに音が出る。
そのため迷惑行為になるのではないか気になる。

かのAVの巨匠村西とおるさんは、連載していた夕刊紙で、電車の座席で新聞を呼んでいたときに起きたある出来事を綴っていた。
記事によると、電車は空いていて、座席も詰まっていなかったので、村西さんは新聞を広げて読んでいた。足も広げていたと書いていたように思う。
ある駅で、背が高くスタイルがよい若い女性が乗り込んできたが、その女性はどういうわけか、無言で村西さんの足を蹴ったと思うと、村西さんの前からどかず、立ち続けている。
それに対し、村西さんは無視を極め込んでいたが、女性は村西さんを睨みつけ、村西さんの足をこづくのをやめない。
とうとう、村西さんは席を立ち、その女性から離れたという。
「こういう女性は相手にしないのがいちばん」と村西さんは書いていたが、長くて大きく、いかつい顔で、しかも体も大きい村西さんに対してこういう行為を仕掛けるとは、どういうことなのか。
心のうちはわからないが、村西さんだとわかってのことなのか。それとも、新聞を広げて読んでいるのが気に食わなかったのだろうか。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。