東 雑記帳 - ホンコンシャツは半袖の裾をV字にカット

東 雑記帳 - ホンコンシャツは半袖の裾をV字にカット

昭和四十一年(一九六一)五月、テイジンが半袖のワイシャツを発売した。それが、ホンコンシャツだった。
のちに知ったのだが、それまで半袖のワイシャツはなかったらしい。夏もネクタイを締めるときのワイシャツは長袖だったようだ。
それが、半袖のワイシャツが登場したわけで、画期的なことだったという。
ホンコンシャツは、大手紡織メーカーの帝人が売り出したこともあり、またたく間に日本中に広まった。当時は、ファッションの流行は帝人や東レ、倉紡といった大手紡織メーカーが牽引していた。

流行となったホンコンシャツは、斬新だったが、それは半袖の裾をV字型にカットしているからだった。それだけで格好良く、垢抜けて見えたものだった。
当時、自分は中学一年で、外出時はいつも夏の制服の開襟シャツを着ており、流行のシャツなど無縁だった。
半袖の裾をV字にカットしたシャツがホンコンシャツという記憶が脳にこびりついている。
ところが、インターネットで検索して調べると、「ホンコンシャツは半袖のワイシャツのことで、発売当初は画期的だったが、今では一般的なスタイルのシャツとなっている」などと説明されており、袖のV字カットにはまったく触れていない。検索が上手でないのかもしれないが、まったく出てこない。V字カットは、どこへ行ったのだ。

しかし、ホンコンシャツの広告には、V字にカットした袖が写っている。それでも気になったので、同い年の友達二人に聞いたところ、二人とも「袖にV字の切り込みを入れているのがホンコンシャツ」との答えだった。それでも、なんだか釈然としない。

ところで、当時の広告写真には、ホンコンシャツとともに、ホンコンスラックス、ホンコンタイというのも載っている。
そもそも、なぜ、ホンコンなのだろうか。
と頭を巡らせていたら、『香港の夜』という恋愛映画を思い出した。東宝制作で、主演宝田 明で、ヒロインは尤敏という香港の美人女優だった。
そのスチール写真が、香港の夜景をバックに、宝田明の膝にロングのチャイナ姿の尤敏がお尻をのせている。
その悩ましい姿……。
この映画が封切られたのが、昭和三十六年(一九六一)七月だった。

当初き垢抜け、格好良く見えたホンコンシャツだったが、V字カットは一時的な流行で、数年後にはださく見えるようになった。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。