東 雑記帳 - ニンニク灸をしたら翌朝、尿がニンニク臭かった

東 雑記帳 - ニンニク灸をしたら翌朝、尿がニンニク臭かった

昭和六十年頃のこと。健康雑誌のライターをしていて、ニンニク灸について書いたことがあった。針灸理論では、全身にエネルギーの通り道である経絡が何本も張り巡らされていて、経絡上の重要な箇所が経穴(ツボ)。ツボは特定の臓器と関連があり、そこに鍼や灸をすることで、関連の臓器の不調が改善するし機能がよくなる。
このときは、「ニンニク灸で体のさまざまな症状が改善する!」といったタイトルの小特集であった。

ニンニク灸は、ツボの上にスライスしたニンニクの切片を置き、その上に艾(もぐさ)を載せて火を付ける。誰が考案したのか知らないが、当時このお灸を勧めていた鍼灸師に取材し、鍼灸師の記事を代わりに書いた。いわゆる、ゴーストライターによる代筆である。この種の健康雑誌の記事は大半がゴーストライターの手によるもので、それによって、いかにも効果抜群のもっともらしい内容に仕立て上げられる。

そして、その記事に基づいて、モデルの女性がツボにニンニク灸をのせたり、すえたりしている写真を掲載し、記事をさらにわかりやすいものにする。
その撮影には、鍼灸師の先生もライターも立ち合い、灸をすえるツボの位置にニンニクの切片と艾をのせたりした。こちらはもっぱら鍼灸師の手伝いだが、鍼灸師が誰だったか、今ではすっかり忘れてしまっている。
撮影の合間、鍼灸師に勧められたからか、こちらもニンニク灸をすえられた。ニンニク灸は不快ではなく、むしろ気持ちよかった。
当時、現代医学では一般的に、皮膚には有害物が侵入しないようにガードする門があるといわれていた。

さて、翌朝、トイレに行ってシッコをしたら、尿がニンニクの匂いがした。ぷんぷん臭った。ああ、ニンニク臭っ! ニンニクの匂い成分は皮膚関門を通過して体内に侵入するとわかった。
今では、有害物質も皮膚関門を通り抜けることが認められているし、その毒を経皮毒と呼ぶ言葉もできている。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。