【お身体をおいといください】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【お身体をおいといください】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

別れ際に相手の身体や健康を気遣うあいさつ言葉として、もっとも一般的なのは「お元気で」であろう。
「がんばり過ぎないでね」とか、「無理しないでね」「体に(体だけは)気をつけてね」などということばもよく聞かれる。
それらは直裁的に相手の体や健康を気遣うことばで、それはそれでよいのだが、同様の意味を表し、使ってみたい言い方に「お身体をおいといください」がある。

「いとう」には、「かばう。大事にする。いたわる」という意味があり、多くの場合、健康についていう。「おからだをおいといください」というかたちで用いられる。
「いとう」は和語(大和言葉)であり、響きがやさしい。前出の「ご自愛」とは対照的である。
だから、女性が用いるほうが似つかわしい。もちろん男性が使ってもおかしくないが、話言葉として用いるのが似合うのは中年以降だろう。

ただし、書き言葉には年代に関係なく使えるので、手紙の結びに用いるとよい。
「からだ」の漢字表記には「体」「躰」「躯」「身体」の四つがある。このうち、躰と躯は常用漢字以外の漢字であり、主に「体」と「身体」が使われているし、平仮名で「からだ」と表記することもある。
「おからだをおいといください」の場合、
漢字は「体」ではなく、「身体」を使ったほうがよいと説いている本がある。その理由は、「身体(しんたい)」は「人間のからだ」を表す漢字だからであるが、言葉としての見た目も「お体」より「お身体」のほうが座りがよいと思われる。

いずれにせよ、この言葉を口にすると、なぜだか、気持ちもやさしくなる。
なお、助詞の「を」を省き、「お身体おいといください」のほうが言葉の流れがスムーズで、話言葉では「を」を省くのが一般的だが、人それぞれの語感があるので、自分の感覚にしたがうとよいのではないか。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。