東 雑記帳 - 頓死

東 雑記帳 - 頓死

今から30年も前、ある医師を取材をしたおり。取材があらかた終わったとみるや、昼間というのに、取材相手がウイスキーを持ち出してきて、「一杯、やりましょう」。ストレートで出され、あおるのは厳しかった。雑談になったが、なんの拍子か、その医師がこう言った。
「(実験用の豚を)檻に入れておくと、一番強いボスに二番目に強いのが向かっていってケンカするが、負けたほうはすぐに死ぬ。頓死する。これが本当に豚死だよ」と語呂合わせをして、自ら笑っていた。

それから25年ぐらいたって、ある心臓外科医をしたとき、動物実験の話に及ぶと、その医師がこういった。
「これから実験に使おうと、豚をつかまえようとすると、すぐに豚が死んでしまうから、手間がかかってたいへんなんだ」

緊張すると、豚は自律神経がもたず、破綻してしまうようである。
そういえば、公道に迷い込んだ野生の鹿などの動物を保護しようと、追いかけ、大捕物を展開して捕獲、無事保護したと思ったら、間もなく鹿は急死してしまった。こういう事故はテレビのニュースで時々流れる。

自律神経が人間ほどには強くないのだろう。だから、急激に過重なストレスにさらされると、自律神経が破綻し、心臓が止まってしまう。
人間ほど、自律神経が強く、図々しい生き物はいないのだろう。だから、地球を支配できたのだろうか。
とはいえ、人間も、怪しい人物とみて警察が力尽くで拘束したところ急死してしまった、ということが希にある。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。