東 雑記帳 - 続続・スルメ(あたりめ)は日本の発酵食品

東 雑記帳 - 続続・スルメ(あたりめ)は日本の発酵食品

屋外に干して、そのあたりに棲息する細菌が付いて発酵した本物のスルメは今、手に入るのだろうか。入らないだろう。とうの昔に消えて無くなったのではないだろうか。
大晦日から年明けにかけて、どこのスーパーでも一匹丸ごと干したスメルが売られている。吊してあるそれには、「天日干し」などという言葉は見られない。
「味わい豊かに干しました」と書かれているものもある。うまいこと表現するものだと感心させられるが、天日干しではないことをやましく思っているのではないかと邪推してしまう。イカの産地の製品だから、やっぱりなあと納得してしまう。

そういえば、五十年も昔、トリスバーやコンパなどの洋風の酒場が全盛だったころ、あたりめは定番のつまみだった。
あぶったあたりめに醤油とマヨネーズをつけて食べる。こういう場所では、スメルは掏るに通じるから縁起が良くないので、あたりめと言い換える。それも酒場で教えられたように記憶している。
また、メニーの一つとして出されるあたりめにも、焼いた後に何かに浸け置きしたと思われるものもあった。
噛んだときの感触が少しグニャッとしているし、いっそう乳酸ぽい味が感じられる。どうやってつくるのだろうと気になったが、結局知らないまま何十年も過ぎた。

一年ほど前、硬いあたりめを噛み切ろうとして、奥歯が少し欠けた。それを知って家の者が火にあぶったあたりめを湯につけてから晩酌のテーブルに出してくれた。
それを口に含み、一口噛んで、「うん、だいぶ軟らかいよ」と言ったところ、「あれはね、たぶん、ほんとうはお酒に浸すのよ」
軟らかくはなっていたが、グニャッとする感触も、乳酸ぽい味も感じられなかったが、「うん。今度は酒で頼むよ、日本酒で」と、つぶやくように答えた。
昔のあの味のあたりめをつまみとして出す酒場はあるのだろうかと、ほろ酔いの頭でぼんやりと考えるのだった。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。