東 雑記帳 - 牛の置き土産で遊ぶ

東 雑記帳 - 牛の置き土産で遊ぶ

五歳の頃、家の前の道で同い年の仲良しと遊んでいたら、三井さん家の牛が通りかかった。
こんなにタイミングよく出合うことはめずらしいので、興味深く見ていた。
すると、歩きながら、大きな置き土産を落とした。それは、黄土色の、まあるい、ホットケーキ状の見事な代物で、湯気が立っていた。ほんのり藁の匂いがするが、人間のそれのようなウンコ臭はまったくない。
仲良しと二人、ほれぼれ見蕩れていた。

と、どちらからともなく、そのお土産で手の平でペタペタ叩いていたのだった。泥で遊ぶ要領であるが、泥よりも感触がやわらかいし、ざらざらしていたい。
ペタ、ペタ、ペタと、叩き、機嫌良く遊んでいたのだが、背後に人の気配がしたと思ったら、
「キャーッ」と女の叫び声。
母親だった。
当然だろうが、すぐにやめさせられて、井戸端で手を洗わせられた。

三井さん家の牛は、ひたいに、焼きごてで三井の三の○印を入れられていた雄牛だった、
この刻印も子供心に格好良く見えた。牛のひたいに合わせコテだから、かなり大きかったのか。
うちには牛はいないし、そんな牛用の焼きごてはなかった。
あるのは、下駄の裏に入れる東の○印だけで、新しい下駄を買ってもらって、おろすときは、祖父が下駄の裏にこの刻印をしてくれた。こちらは、たいしてうれしくはなかった。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。