東 雑記帳 - 大根と揚げのかやくごはん

東 雑記帳 - 大根と揚げのかやくごはん

三十歳の頃、一緒に住むようになった母が、大根と揚げのかやくごはんをつくってくれた。
大根をイチョウ形に、揚げは細長く切る。それを鍋に入れて煮るが、醤油、味醂、砂糖、清酒などで味付けする。
たったそれだけの料理である。
できた具を白い御飯に混ぜると、かやくごはんの出来上がり。
大根と揚げの味が絶妙にというと大げさだろうが、マッチする。

間もなく母は病を得て、手術したが、余命八か月と宣告された。七か月を過ぎた頃、母は亡くなったが、最後に入院するまでの間に、このかやく御飯のつくり方を教えてもらった。

調味料は醤油と砂糖があれば足りるし、砂糖の代わりに味醂でもよいし、さらに清酒を加えてもよい。大根と揚げの味が出るから、調味は適当でも自然に味は調う。

母が亡くなったのち、時にこの大根ごはんを思い出し、つくったが、結婚してからは妻に教え、妻につくってもらうようになった。

母が亡くなって三十年たった頃だった。故郷に帰って、年上の従兄弟夫婦の家でご馳走になって、昔話に興じ、天神様の祭りの話題になった。
小学校一、二年の頃、少し離れた集落の家で、かやくを混ぜたおにぎりをもらったが、それがおいしく、記憶に残っていた。甘辛い味。子供はおにぎりをもらうために、わざわざよその家を訪ねるが、それは祭りのときの恒例だったらしい。

「あれは、大根と揚げを煮て具として、むすびにしたものだよね」と聞くと、従兄弟が、
「いやいや、あれはよ、切り干し大根よぉ」
「あっ、そうか。切り干し大根だったのか」と、私。腑に落ちた。
従兄弟はまた、往時を懐かしむように、
「あれは祭りのときだけ作っていたよなぁ」と、つぶやいた。

切り干し大根を使うところを、母は生の大根で代用し、混ぜ御飯にしたのだろう。
生と乾燥では風味も味も違う。やはり、切り干し大根のほうが本家のようである。

というわけで、何十年もたって、大根と揚げのかやく御飯のルーツがわかったのだった。

大根を使ったごはんというと、多くの人は、NHKの朝の連続ドラマ『おしん』の大根飯を思い出すようである。ネットで調べてみたら、米と大根半々のごはんで、米を節約するためのものだったらしい。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。