東 雑記帳 - ハト麦の煎じ汁でイボが消えた!

東 雑記帳 - ハト麦の煎じ汁でイボが消えた!

中学二年の頃、左手に大きなイボができていた。
親指と人差し指に一つずつ、目立つので、バスに乗ったとき左手では手すりをつかまないようにした。
思春期に入っており、とても嫌だった。

当時、イボは男子生徒の間ではけっこう流行っていたのだろう。イボをこしらえている級友が何人かいた。イボ(尋常性疣贅=じんじょうせいゆうぜい)はウイルスが原因でできるが、男子は相撲を取ったり野球をしたりして遊ぶので、感染しやすいのだろう。
イボができている級友の一人に、住まいが同じ方向のMくんがいた。特別に親しいという間柄ではなかったが、普通に仲よくしていた。
彼は左手に一つ、大きなイボがあったが、その彼がある日、通学の途中で行き合わせたときのこと。
「万年筆のペン先でイボをつっついていたら、イボが消えたよ」と言って、イボがあった左手を差し出した。
見ると、イボは跡形もなくなっているが、その部分の皮膚が青黒く色が染まっている。
「入れ墨ができたよ、ははっ」と、自嘲的に笑っている。

努力して自力でイボを治したけれど、少し知恵が足りなかったのだろう。未使用のペン先でつついたなら、インクが入れ墨になって残ることはなかったろうが、それは後年、こちらが考えたことに過ぎない。
それはともかく、それなら自分も同じように自己治療してみようか、とは思わなかった。

それからさほど日もたたないある日のことだった。帰宅した午後、食卓の前に座ると母が、焦げ茶色をした液体が湯気を立てている湯呑みを差し出し、「これ、飲みなさい」
香ばしいような、少し薬臭いような匂いがする。「これ、なんなん?」と聞くと、はと麦を煎じたもので、イボに効くというのであった。漢方薬局へ相談に行き、処方してもらったようで、ゲンノショウコだったと思うが、併せて煎じるという。。
濃く煮出した熱い煎じ汁は、苦く、まずかったが、量は150ミリリットル程度だっただろうか。200ミリリットルはなかったように思う。我慢すればさほど抵抗なく飲めた。

以来、一日も欠かさず毎日真面目に飲み続けて一か月半たったころ、二つの大きなイボはきれいに消えてなくなった。うれしかったなあ。しかし、母に礼を言った覚えはないが、母の前で、えらく喜んだ顔をしたのは間違いないだろう。
その後も言葉にして礼を言ったことはなく、結局母が亡くなるまで「ありがとう」は言わなかった。
けれど、今もあのときのことを思い出すたび、「おふくろがイボを治してくれたんだなあ」と、うれしく、泣きたいような気持ちになる。

大人になってから、はと麦は漢方生薬名を「薏苡仁(よくいにん)」といいい、古来イボ取りの妙薬であることを知った。
十五年ぐらい前から毎日、健康茶として売られているはと麦を煎じて飲んでいるが、精白歩合が高いのだろうが、今のものは香りもよいし、とてもおいしい。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。