東 雑記帳 - はい、ひがしくん、ひがしまるしょうゆ

東 雑記帳 - はい、ひがしくん、ひがしまるしょうゆ

中学のときの国語担当は瓜生という三十半ばの男の教師だった。
ある日の授業。瓜生先生が、ぼくを指さして、突然、
「はい、ひがしくん、ひがしまるしょうゆ!」
ぼくは国語はできたほうで、割合によく当てられた。瓜生先生は、背は高く、般若系の顔で、しかも武張った顔で、体も骨張って痩せていた。けれど、やさしい先生だった。
このとき、瓜生先生はそう言って僕をあてて、般若顔をにやつかせ、一人悦に入っていた。

ヒガシマル醤油は兵庫県たつの市にある醤油メーカーだった。当時、醤油は地場の醸造元もあるし、県内、近県にもたくさんあったと思う。しかし、兵庫の醸造元が山口県でも広く知られていたのは、テレビでCMも流し、スーパーなどに置かれていたからだろう。
自分ももちろんヒガシマル醤油は知っていたが、といって、「ひがしくん、ひがしまるしょうゆ!」とギャグまがいのことを言われても、ベタ過ぎて面白くともなんともない。
案の定、生徒にまったく受けなかった。言われた当のぼくは苦笑いするわけでもなく、何も反応しなかった。
あるいは、意味もなく、笑顔を浮かべたかもしれない。

瓜生先生はその後、こりずにまた、「はい、ひがしくん、ひがしまるしょうゆ!」とやったが、もちろんこのときも完璧にすべった。三度目はやらなかったように思う。

ヒガシマル醤油は、「うどんスープの素」を今では関東でも売っており、自分はうどんやそばのスープに常用しているが、その話は別の機会に。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。