東 雑記帳 - 「私史上一番」って、聞いて恥ずかしい

東 雑記帳 - 「私史上一番」って、聞いて恥ずかしい

野菜ジュースのコマーシャルに、調理や栄養関係の人が何人も出てきて、この青汁を褒め称える。
CMだから、当然といえば当然だろう。
「おいしい」とか「すばらしい」とか、抽象的な褒め言葉を口にしているだけだから、表景法にも抵触しない。

このコマーシャルのうち、いちばん耳につく言葉が、「私史上一番ですね」
きれいな女性が、気取って、しかし自信満々に言い切る。
「私史上でいちばん」とは、なんと大げさな、と初めて聞いたときは少し驚いた。
たかが野菜ジュースに、なんと、大きく出たものだろうか。
聞いていて、恥ずかしい。見ていて、恥ずかしいではないか。
自意識高い人なのかなあ。

とはいえ、「生まれてから今までに飲んだ青汁のうちでいちばん美味しいのだから、自分史上いちばんに違いない。どこがいけないの?」と反論するかもしれない。それはその通りであるが、「自分史上」という言い方、かつてはしなかった。日本語は、「自分、自分」と自己主張するのは似つかわしくないからか。

これと同じ言い方に、「自分史上」がある。「私史上最高」とか「自分史上最高」という言い方もするようだ。とすると、「あたし史上一番」「ぼく史上最高」「俺史上二番」「わし史上三番」などもありなのか。無いだろうと思うけど、じいさんが、「この酒はえらいうまいのお。わし史上で最高じゃ」などと言うようになったら、世も末か。

とはいえ、プロ野球・中日の福留孝介選手の引退に際して、王さんの次のようなコメントがスポーツ新聞に載っていた。
「(日本代表監督を務めた二〇〇六年のWBC準決勝で)優勝につながる最高の本塁打を打ってくれた。僕の野球史に残る選手。彼がやったようにチャレンジすることを若い人に教えてほしい」
通算本塁打八六八本という前人未踏の記録を打ち立てた王さんだからと思うからか、妙に納得させられるが、以前なら、「僕の野球人生」と言うのが普通の言い方だったなあ、とも思ってしまうのである。

「最高」だってそうだ。この言葉が広まって最高の閾値はぐっと下がったが、この言葉を広めたのは、詐欺師の拝み屋・福永法源(国史院常照)だった。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。