健康本を読んでみた! ~ 【「空腹」こそ最強のクスリ 著者 医学博士 青木厚 アスコム】長年健康系ライターとして活動してきた東/茂由が紹介する書籍。「何を食べるか」より、「食べない時間を長く保つ」ことが重要

健康本を読んでみた! ~ 長年健康系ライターとして活動してきた東/茂由が紹介する書籍 ~ 「何を食べるか」より、「食べない時間を長く保つ」ことが重要【「空腹」こそ最強のクスリ 著者 医学博士 青木厚 アスコム】

健康本を読んでみた!

「何を食べるか」より、「食べない時間を長く保つ」ことが重要

「空腹」こそ最強のクスリ
著者 医学博士 青木厚 アスコム

発売から1年4か月で20万部突破

何も食べない時間を長くたもつ食事法を勧めている本である。初版第1刷が2019年2月4日で、発売以来売れ続け、2020年6月21日の新聞広告では「ベストセラー20万部突破」と謳われている。
何かを我慢したり、つらい思いをしたりする健康法の本は売れにくい。人間は基本的に、楽な方法で健康になりたいからだろう。

特に食事や食べ物を制限するのは厳しい。しかし、20年ぐらい前から、半日断食(朝食抜きの1日2食の食事法)の本は大ベストセラーにならないものの、ロングセラーとして売れ続けている。
本書で勧めている食事法も基本的には1日2食であるが、それにしても1年数か月でこれだけの部数に達するとは、何が奏功したのだろうか。
新聞広告には、「がんを克服した医師が9年実践」「『無理なくできる』『リバウンドなし』と好評の半日断食で、疲れた内臓を休め細胞を修復する!」等のコピーが踊っているが、やる気にさせる効果十分だといえるだろう。

オートファージ研究をもとに生み出された食事法

本書のエッセンスは、「何を食べる」よりも、「空腹(ものを食べない)時間」をいかに保つかに重きを置くほうが、健康にとって役に立つという考え方にある。
本書の「はじめに」のさらに前に、次のように書かれている。

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「これまで健康や長寿、アンチエイジングのための、さまざまな食事法が紹介されてきました。しかし最新の医学エビデンスに基づき、近年、『食べものの内容を制限する』ことよりも、『食べない時間を増やす』ことに、より注目が集まっています」
「この本で紹介する食事法は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した『オートファージ』研究をもとに生み出されました」
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以下は、本書に頼らずに、オートファージについての概要。

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大隅良典・東京大学名誉教授がオートファージの研究でノーベル賞を受賞するや一時期、医師の間でずいぶんこの理論が注目された。
オートファージとはどういうことかというと、成人の体では1日に約200gのたんぱく質が合成されているが、食事から摂取しているたんぱく質の量は60~80程度。では、その差は何にあるかというと、細胞の中でたんぱく質を分解し、新たにたんぱく質を再利用する。そうすることで、不足分を補っているということである。
つまり、たんぱく質の材料は、3分の2が自分自身の分解物である。
以上がオートファージの概略で、大隅教授はオートファージ関連遺伝子を発見したことで、ノーベル賞を受賞したのだった。
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オートファージを健康に活用できる方法は断食

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これらの遺伝子に変異があると、肝障害、糖尿病、神経変性疾患、腫瘍形成、ミオパチーなどさまざまな病気が発症する。このことから、オートファージこれらの病気の発症を防いでいると考えられている。
マウスの実験では、オートファージがなくなった肝臓では肝臓が肥大し、肝がんが発生。神経細胞でオートファージがなくなると、体反射に異常が起き、細胞が死ぬことも報告されている。

それでは、どうすればオートファージを健康増進や老化防止、病気予防などに活用できるのか。今の段階でもっとも確実と考えられている方法、それが断食(ファスティング)である。
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オートファージについての一般的な説明は、ここまで。

「1日3食」「食べすぎ」が、疲れやすい体を作る

本書の「はじめに」に以下のようなことが書かれている。

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・「1日3食」「食べすぎ」が、疲れやすい体を作る。
・1日3食というのは、それだけで「食べすぎ」になってしまう可能性がある。
・食べすぎは、さまざまな体の不調を招く。
・食べすぎには「体を錆びつかせる活性酸素を増やす」といったデメリットがある。
・現代日本人の食事は、特に糖(糖質)が多くなりがち。糖質のとりすぎはさまざまな病気の温床となる。
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以上のような害から体を守るには、いったいどしたらよいか。そこで、本書で著者が勧めているのが、「空腹の時間を作る」というもので、
「『空腹』というと、お腹がペコペコで辛いというイメージがあるかもしれませんが、この本でいう『空腹』とは、『ものを食べない状態』を指していると捉えてください」と注釈している。
なるほど、「空腹」には、「ものを食べない状態」の意味はないし、その状態を表す適切な言葉がなく、悩ましい。

空腹は最高のクスリ。疲れない体をつくる

そして、論を次のように続けている。

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「空腹の時間を作ると、まず内臓がしっかり休むことができ、血糖値が徐々に下がります。また、最後にものを食べてから10時間たつと、肝臓に蓄えた糖がなくなるため、脂肪が分解されエネルギーとして使われるようになり、16時間を超えると、体に備わっているオートファージ』という仕組みが働くようになります」

「オートファージによって、古くなったり壊れたりした細胞が内側から新しく生まれ変われば、病気を遠ざけ、老化の進行を食い止めることができるのです」
そして、空腹の時間を作ることで、
・内臓の疲れがとれて内臓機能が高まり、免疫力もアップする。
・血糖値が下がり、インスリンの適切な分泌が促され、血管障害が改善される
・脂肪が分解され、肥満が引き起こすさまざまな問題が改善される。
・細胞が生まれ変わり、体の不調や老化の進行が改善される。
「といったさまざまな『体のリセット効果』が期待できます」と続け、次のように決めている。

まさに、「空腹は最高のクスリ」なのです。
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舌がん再発を防ぐ方法を模索し、たどり着いた食事法

「はじめに」によると、著者がこの食事法を始めたのは、舌がんになったのがきっかけだという。医師という職業柄、それなりに食事の内容に気を使ってはいた。ただ、日々の生活の中で、やはり知らず知らずのうちに「食べすぎ」「糖質の摂りすぎ」に陥っていたのだろう、と。
いつの間にか、おなかに脂肪がついて、ちょっとしたメタボリック体型となり、2010年、40歳のとき、舌がんにかかっていることがわかったという。

がんは手術によって取り除くことができたが、同じような生活を続けていたら、また、がんを再発してしまうおそれがある。
そこで、さまざまな書籍や論文を読み漁り、糖尿病をはじめとする生活習慣病の患者さんたちの治療で得た経験や知識なども踏まえて、「どのような食事の仕方であれば、もっとも無理なく、ストレスなく、病気を遠ざけることができるか」を真剣に考えた。
その結果、たどりついたのが、「空腹」の力を活用する方法だったという。

実践・継続しやすい配慮がなされているのも魅力

基本のルールは、「連続16時間の空腹時間(ものを食べない時間)」を確保することで、「睡眠時間+8時間の空腹」で達成できる。この基本は、従来からある、朝食を抜く1日2食の食事法と同じ。

「空腹の時間(ものを食べない時間)以外の時間には、何をどれだけ食べるのも自由」と教えているが、このことは食事療法実践・継続のハードルを下げており、「これならできるかもしれない」と、その気にさせる効果がある。「何をどれだけ食べてもかまわない」は、大きな魅力に違いないだろう。

加えて、「ものを食べない時間帯」にも、何かを食べたくなったら、ナッツ類を食べてかまわない。ちにみに、ナッツ類には、多く含まれている不飽和脂肪酸がオートファージを活性化することも、まだ研究段階であるがわかってきているという。
また、ナッツ類が苦手な人には、「生野菜サラダ」「チーズ」「ヨーグルト」などでお腹を満たしてかまわない。大事なのは、無理せず、長く続けることなのだという。

具体的には、食事をとる時間について、「夜間に空腹の時間を作る場合」と「昼間に空腹の時間を作る場合」の2つパターンを提示している。

・パターン1 夜間に空腹の時間を作る場合
6時頃 起床
(この間、もし空腹を覚えたら、ナッツ類をつまむ)
10時頃 朝食
(この間、好きなものを食べてかまわない)
18時頃 夕食
22時頃 就寝
ものを食べない時間帯 18時~翌10時(16時間)

・パターン2 昼間に空腹の時間を作る場合
6時頃  起床。朝食
(この間、もし空腹を覚えたら、ナッツ類をつまむ)
22時頃 夕食
0時頃  就寝
ものを食べない時間帯 6時~22時(16時間)
このパターンが向いている人
・朝、ご飯を食べないと、午前中の仕事に支障が出るという
・残業が多く、夕食を食べるのが遅くなりがちな人
・仕事などに熱中している間は、あまりお腹が空かないという人など

パターン2に関しては、夕食から就寝までの間隔が2時間と少し短いが、若い人なら胃は大丈夫なのだろう。また、22時~翌6時までは、「食べてOK」の時間帯としているが、夜中に食べては体に良いはずがないだろう。昼間の空腹の時間を優先するためには、仕方がないと解釈すればよいのだろうか。

これについては、別の項で、「夜間にものを食べないのは、サーカデイアンリズム(概日リズム)にも合っています」とある。

食べ過ぎの害、空腹の有益性に関することが網羅されている

以下は、まとめ。
基本的には半日断食の本であるが、断食という抹香臭い言葉(?)もファスティングというアメリカ外来の言葉も使っていないこと等、打ち出し方も読者を引きつけることに一役買っていると思われる。

本書は空腹を長く保つことが健康によいことの根拠を「オートファージ」に求めている。
そして加えて、この食事法のさまざまな効用があることを紹介し、それらも根拠にしている。
1日3食が不健康、体調不良をもたらすリスクがあること、一方、「空腹」をつくることにさまざまな効用があることなどが、網羅され、しかも、わかりやすく説明されている。
頁数は214頁だが、1頁の文字数は少なく、短時間にすらすらと読める。

また、決まり事が少なく、規則で縛らないのが魅力だが、実践するにあたっては、本文全体をきちんと読み、細かい部分も読み取ったほうがよいと思う。たとえば、基本の大前提は「何をどれだけ食べてもよい」としているが、「食べ過ぎは、DNAや細胞をも傷つける」「ご飯や肉の食べ過ぎが、あなたの命を危険にさらす」などの項目もある。
糖(糖質)のとりすぎの害についても、1章を立ててあり(3章「糖」がもたらす毒を、「空腹」というクスリで取り除く)、糖尿病についても、「糖質制限より、空腹の時間増やすほうがいい」と述べている。

栄養摂取重視、朝食の摂取・1日3食は健康の基本などの考え方に染まっている人が多いが、それが不健康の原因になっている場合が少なくない。そういう人たちにオススメの一冊といえよう。

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「空腹」こそ最強のクスリ
著者 医学博士 青木 厚 アスコム
2019年2月4日 第1刷発行

単行本(ソフトカバー): 214ページ
出版社: アスコム (2019/1/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4776210193
ISBN-13: 978-4776210191

著者:青木/厚
医学博士。あおき内科さいたま糖尿病クリニック院長。自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科などを経て、2015年、青木内科・リハビリテーション科(2019年に現名称に)を開設。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。糖尿病患者の治療に本書の食事術を取りいれ、インスリン離脱やクスリを使わない治療に成功するなど成果を挙げている。自身も40歳のときに舌がんを患うも完治。食事療法を実践してがんの再発を防いでいる。

構成
はじめに
第1章 「1日3食しっかり食べる」「空腹な時間をつくる」どちらが長寿と健康をもたらすか
第2章 無理なく「空腹」を作り、体を蘇らせる食事法
第3章 「糖」がもたらす毒を、「空腹」というクスリで取り除く
第4章 「空腹力」を高めれば、これだけの病気が遠ざかる

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紹介文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。