健康本を読んでみた! ~ 【手を洗いすぎてはいけない──超清潔志向が人類を滅ぼす 著者 藤田紘一郎 光文社新書】 長年健康系ライターとして活動してきた東/茂由が紹介する、いまだからこそ読みたい、インフルエンザ、新型コロナウイルスの予防にも役立つと思われる書籍。日本人の行き過ぎた清潔志向が、免疫力を低下させる

健康本を読んでみた! ~ 長年健康系ライターとして活動してきた東/茂由が紹介する、いまだからこそ読みたい、インフルエンザ、新型コロナウイルスの予防にも役立つと思われる書籍 日本人の行き過ぎた清潔志向が、免疫力を低下させる【手を洗いすぎてはいけない──超清潔志向が人類を滅ぼす 著者 藤田紘一郎 光文社新書】

健康本を読んでみた!

日本人の行き過ぎた清潔志向が、免疫力を低下させる

【手を洗いすぎてはいけない──超清潔志向が人類を滅ぼす 著者 藤田紘一郎 光文社新書】

手を洗いすぎるから風邪を引く

サブタイトルの「超清潔志向が人類を滅ぼす」は、なんとも勇ましい文言であるが、本書を一読すれば納得できる。

新型コロナウイルスの予防には、手洗いが非常に重要だといわれる。その理由は、ウイルスが付着した手で目や鼻、口をさわることによって、感染のリスクが高まるから。
石けんなどで、手の甲、手の平、指1本1本はもちろん、爪の間もよく洗う。そして、その後にアルコールなどの除菌液を使用すると、いちばんよい。石けんなどを使わなくても、流水で20秒、30秒洗うと、ウイルスは十分洗い流せるという。

しかし、それを忠実に実践しても、本当にウイルスが除去できたかどうか。なにしろ、目に見えないウイルスを相手にしているわけだから、こころもとないと感じている人が多いのではないだろうか。
その不安を払拭するためには、もっと手洗いを徹底することになるだろう。

新型コロナウイルスの予防に必須の方法として勧められている手洗いであるが、回虫博士として知られる、藤田紘一郎・東京医科歯科大学名誉教授(専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学)は以前から、「手を洗いすぎてはいけない」「手を洗いすぎるから風邪をひく」と持論を主張してきた。
本書は、その見解を一冊にまとめたもので、過剰な手洗いは、感染症にかかりやすい状態をつくり出すという。

乾燥肌の最大の原因は「洗いすぎ」

藤田博士は、一般的に推奨される手洗いを3日間だけ、1日3度の食事前と帰宅時の4回、実践してみた。すると、どんなことが起こってきたか。「手の皮膚がカサつき、親指の爪の付け根が裂けてきた」という。

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詳しいことは順々にお話しますが、手を洗いすぎると皮膚の潤いが失われ、カサついてきます。これは自然の減少です。乾燥肌は「老化現象の1つ」とよくいわれますが、そんなことはありません。ふだん石けんを使わない私の手は、75歳ですがスベスベで、ガサガサなどしていなかったのです。乾燥肌の最大の原因は、「洗いすぎ」です。

「そして、次にみなさんが知らない大事なことをお話しします」と、次のように続けている。
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皮膚は、常在菌によって守られている

要約すると、人間の皮膚には皮膚常在菌という細菌がいて、皮膚を守ってくれている。彼らは、皮膚から出る脂肪をエサにして、脂肪酸の皮脂膜をつくり出してくれている。この皮脂膜は弱酸性で、病原体のほとんどは酸性の場所では生きることはできない。
この皮脂膜がしっかり築かれていると、病原体が手指に付着するのをそれだけ防げるのである。

では、手洗いをすると、どうなるか。次のように続けて述べている。

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石けんを使うと、1回の手洗いで常在菌の90%が洗い流されると報告されている。ただし、1割ほど常在菌が残っていれば、12時間後には元の状態に戻る。昔ながらの固形石けんでさえ、常在菌の約割を洗い流してしまう力があるのである。薬用石けんやハンドソープ、ボディソープなどに宣伝されているほどの殺菌効果があるとしたら、そうしたもので細部まで2回も洗い、アルコール消毒などしてしまえば、さらに多くの常在菌が排除されていることになる。
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手洗いのしすぎは、外からの病原菌を付きやすくするし、手荒れを引き起こし、傷口は細菌の温床になる

続いて、「それを数時間おきに行っていると、どうなるのでしょうか」と問いかけ、次のように答えを導いている。

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わずかに残されている常在菌が復活する時間さえ奪ってしまいます。
脂肪酸のバリアを失って中性になった皮膚には、外からの病原体が手に付着します。洗いすぎると感染症を引き起こしやすいというのは、こういうことだというのです。

さらには、洗いすぎると、手の皮膚がカサつき、爪の付け根が裂けることもあります。そうすると、傷口から病原体が侵入するおそれもあります。手荒れは菌の温床になります。
インフルエンザや新型コロナウイルスに手洗いは大事ですが、洗い過ぎはよくないということも認識しておくべきでしょう。
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「過剰に手洗いをして、その結果、皮膚は乾燥するが、多くの人(日本人)はそれを保湿剤や美容液で補っている」という。

手洗いについては、藤田博士も石けんを使うが、それはお風呂に入ったとき、1日1回きりだという。たまに手に見える汚れがついたときにも、石けんを使うことがある。
けれども、帰宅時やトイレのあとに洗うのは、流水で10秒間だけ。食中毒になることもなければ、風邪もめったに引かないというのである。
そして、次のように断定している。

石けんを頻繁に使う人ほど風邪を引きやすいのは事実です

その一例として、この本を企画した編集者を挙げている。この人は、以前は1日10回前後もハンドソープで手洗いをしていたという。風邪を引くたびに、「手洗いとうがいが大事」と予防に熱心になっていったという。それにもかかわらず、すぐに風邪を引いてしまい、困っていた。そんなとき、偶然にも藤田博士のこの本を読んだという。

その後、この編集者は手洗いをやめた。トイレのあとは、とくにゴシゴシと手を洗っていたが、流水だけにした。藤田博士の言うように、手洗いは水で10秒間だけにし、うがい薬を使うのをやめたら、風邪をめったに引かなくなったという。

付け加えると、うがい薬は常在菌まで殺してしまうのに、風邪の予防に用いるのは、かえって逆効果になる。

もちろん、藤田博士は、「清潔にしてはいけない」と言っているのではなく、次のように述べている。

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身の周りや体を清潔に保つのはとても大事なことです。
衛生環境を整えることが、感染症予防の必須事項であることは、疑う余地のないことです。実際、日本も近代に肺って生活環境が非常に整い、医学が発展したことによって、国民の平均寿命が延びました。感染症で死亡する人が減ったためです。
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そして、次のように問いかけている。

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しかし、現在の日本の清潔志向は、そうした「命を守るための衛生」から、大きくかけ離れたところにあります。自らの肌を痛めつけてまで手を洗う意味がどこにあるのでしょう。
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日本の清潔志向は細菌やウイルスの逆襲を招く

本書の構成は、第1章が「手を洗いすぎる人は、なぜ体が弱いのか?」で、第2章は「清潔志向がアレルギーを増やしている」、第3章「異常すぎる日本の清潔志向」、第4章「マスク大好き人間の愚」、第5章「きれい好きをやめれば、免疫力が強くなる」、第6章「手はゴシゴシ洗っている」。

新興・再興感染症の発生が懸念されるようになったのは、21世紀になってからだろうか。
WHOは1990年に、「20年前には存在しなかった感染症」を定義し、それに伴い、20年前から存在した感染症が再び発生したものを再興感染症と呼ぶことにした。

20年も前から、新興・再興感染症が次々と生じてくると予測されている。その原因はいくつもあるが、藤田博士はまず、地球温暖化によって生態系のバランスが崩れたことを挙げている。
それは地球全体の問題であり、個人レベルでは、どうすればよいか。
「人の免疫は、身の周りのチョイ悪菌と日常的に闘うことで強化されます」
そのためには、行き過ぎた清潔志向をやめるべきだというのである。

細菌やウイルスも地球上に私たちとともに共生しているものである。それを過剰に排除するから、人間の免疫力が低下する。徹底的に排除しようとするから、細菌やウイルスが逆襲してくる。
このように考えると、本書のサブタイトルの「超清潔志向が人類を滅ぼす」は、おおげさな文言とはいえないと思う。

今回のコロナ騒動で、日本人の清潔意識はいっそう高まった。空間除菌、テーブル等の除菌も今後、常識となるのではないか。とすると、藤田博士の考え方とは逆の方向へますます進む恐れが十分あると考えざるを得ない。

藤田博士は「日本は世界一清潔な国」であると述べているが、そのとおりなのだろう。
新型コロナウイルスがドイツで急増した頃、そのことにからんで、岡田晴恵・白鵬大学教育学部教授(公衆衛生学)がで「ドイツ人は手を洗わないですから」と、つい吐露してしまったが、ドイツ人はもちろん、フランス人もあまり洗わないといわれる。

彼我のどちらが免疫力が強いのか。また、今回の新型コロナウイルスの感染への影響はどうだったのか。そんなことも考えさせられる一冊である。

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手を洗いすぎてはいけない──超清潔志向が人類を滅ぼす
著者 藤田紘一郎 光文社新書
平成29年12年20日 初版

新書: 222ページ
サイズ: 17.4 x 10.8 x 1.2 cm
出版社: 光文社 (2017/12/14)
言語: 日本語
ISBN-10: 4334043283
ISBN-13: 978-4334043285

著者:藤田紘一郎(ふじたこういちろう)
医師・医学博士。1939年、旧満州生まれ。東京医科歯科大学卒。東京大学大学院医学系研究科修了。金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学教授を歴任し、現在は同大学名誉教授。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日本寄生虫学会賞、講談社出版文化賞・科学出版賞、日本文化振興会社会文化功労章および国際文化栄養賞など受賞多数。著書に、『こころの免疫学』(新潮選書)、『アレルギーの9割は腸で治る!』『50歳からは炭水化物をやめなさい』(ともに、だいわ文庫)、『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)などがある。

構成
第1章 手を洗いすぎる人は、なぜ体が弱いのか?
第2章 清潔志向がアレルギーを増やしている
第3章 異常すぎる日本の清潔志向
第4章 マスク大好き日本人の愚
第5章 きれい好きをやめれば、免疫力が強くなる
第6章 手はゴシゴシ洗ってはいけない

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紹介文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。