健康本を読んでみた! ~ 【手洗いのバイブル 著者 西田 裕 光琳】長年健康系ライターとして活動してきた東/茂由が紹介する、手洗いは、目的意識をもって、目的的に行ってこそ意味があると教えてくれる、手洗いと衛生の貴重な一冊

健康本を読んでみた! ~ 長年健康系ライターとして活動してきた東/茂由が紹介する、手洗いは、目的意識をもって、目的的に行ってこそ意味があると教えてくれる、手洗いと衛生の貴重な一冊【手洗いのバイブル 著者 西田 裕 光琳】

健康本を読んでみた!

手洗いは、目的意識をもって、目的的に行ってこそ意味があると教えてくれる、手洗いと衛生の貴重な一冊

【手洗いのバイブル 著者 西田 裕 光琳】

食品製造の現場の人たちに向けた手洗いと衛生の本

新型コロナウイルスの予防には、手洗いが非常に重要だと言われている。アルコールなどの除菌効果があるものを使用するとよいが、石鹸でよく洗えばよいし、石鹸を使わなくても流水でよく洗えば新型コロナウイルスのほとんどは取り除けるといわれる。
どの方法においても、手の甲、手の平、指1本1本はもちろん、爪の間もよく洗う。一般的には、こんな感じであるが、そのとおりにやって、本当にウイルスが取り除けているのかどうか、こころもとないという人が多いのではないだろうか。

新型コロナウイルスは人工ウイルスという情報もあるし、症状などからも正体不明のウイルスで、わたしたちの体にどんな悪さをするか、わけがわからない。
2月には、中国疾病対策予防センターが便からもこのウイルスが検出されたと発表した。新型コロナウイルスに感染すると、下痢など消化器症状が現れることがある。下痢をすると、便とともにウイルスが飛び散るだろう。

『手洗いのバイブル』は、表紙にサブタイトル的に「食品現場の不安をなくす本!」とあるとおり、食品製造の現場で働く人たちに向けた、手洗いと衛生に関する本である。専門書ではあるが、質疑応答のQ&A式で構成しており、一般の人にもよく理解できるよう、わかりやすくまとめられている。
ちなみに、版元の(株)光琳は、食品関係の専門出版社としてその業界で知られていたが、すでに倒産している。この本を紹介しつつ、排便と手洗いについて考えてみたい。

目的的に手を洗ってほしい

著者は食品衛生の専門家で、飲食業界の現場に通じ、衛生についてその業界を指導してきた斯界で知られている存在であったようだ。今から45年前の昭和50年の刊行。今ではこの本に書かれていることよりも新しい報告や知見もあるだろが、本書の内容は色あせていない。はしがきに次のように書かれている。

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なんといってもこの本のバックボーンは、過去現在のマンネリ化、習慣化した無意味な「手洗い」をチョッピリ、あるいは厳しく反省し、「目的的」で「用に応じて」の手洗いをしてほしいということであり、また、「定量管理」により指導や躾を行わなければ効果の薄いことを強調している訳です。
(中略)
現代の食品衛生上の盲点である「手荒れ」が、食中毒の代表格の原因物質である病原性ブドウ球菌と密接に関係することも含めて、科学的な手洗いに目覚めて手荒れを誘発するようなムダで無目的な「手洗い」はむしろカットすべきでしょう。
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排便をした後はトイレットペーパーで拭くが、紙を通して菌が手につく。本書には次のように書かれている。

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用便の始末時、人の手にある程度の汚染があります。手指につく菌量は、もし用便1㎎中の菌の1/10~1/100程度であったとしても、仮に1㎎中の菌が1億個とすれば、1,000~100万個の菌が付着することになります。
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排便後の手洗いの重要性

トイレットペーパーを何重にも重ねて拭かないと、大腸菌は手につく。現在では、日本防黴菌学会の研究で、「トイレットペーパーを36枚重ねてようやく大腸群が検出されなくなる」と報告されている。
しかし、36枚も重ねて拭くことが実際にできるのだろうか。難しいだろう。
そこで、用便後に手をよく洗うことが求められるが、手洗いはほんとうに有効なのか。
本書では、手洗いによる除菌について、次のように述べている。

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どんなに時間をかけ、丁寧に洗っても手指の菌は除菌されませんので、現場の手洗いは、一時的汚染菌のみを除菌する程度にして、手袋作業をするとか、素手のタッチを避ける工程などに切り換える必要があります。
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食品製造の現場の人たちに向けては、抜本的な方法を勧めているが、現在では弁当屋さんやスーパーの惣菜づくりの現場などでは手袋の使用は常識となっている。
ウイルスについては現在、手洗い無しと手洗いをした後の、残存ウイルス量を比較した報告がある。
それによると、手洗い無しでは残存ウイルスが約100万個であるのに対し、石鹸やハンドソープで10秒もみ洗いした後、流水で15秒すすぐと、約0.001%(数十個)に減る。その手洗いを2回くり返すと、残存ウイルス量は約0.0001%(数個)にまで減少する。
ただし、排便後の、手洗いなしと手洗いをした場合のウイルス数を比較した研究はないようである。

用便の後は手洗いが大事なことはわかるが、問題は公衆トイレを利用した場合だろう。
ほとんどの人が、用を足してから、衣服をただして、それから手洗いをする。しかし、それでは手に付いた菌は衣服に移行し、その衣服にさわると菌が手についてしまう。そのことにも本書は注意を促している。

公衆トイレは他人の菌がびっしり付いている

それでなくても、不特定多数が利用する公共のトイレは、さまざまな菌が付着しているだろう。他の人が触れたところは菌が付着しているはずである。
とすれば、どうすればよいだろうか。
男性の場合、外出先で排便をしないなら、そのリスクは避けられるが、女性は小用を足さなければならない。
洋式便器の場合、便器内の水が跳ね上がり、おしりや太ももに付き、細菌も付くリスクがある。そんなことを考えると、公衆トイレを使用するのが気持ち悪くなってくる。

トイレは、日本では温水洗浄便座が主流になってきており、公共のトイレにもこのタイプが増えてきた。温水洗浄を使い、その後にトイレットペーパーで拭いたら、温泉洗浄を使わない場合に比べ、ペーパーに付く菌の数は減るのではないだろうか。と思って調べてみたが、そういう実験、調査は行われていないようである。

しかし、温水洗浄便座は、洗浄水が出るノズルやその収納口が汚いのではないのか、という不安がある。ノズルを自動で洗浄する機能が付いたものもあるが、果たしてそれでキレイになるのかどうか。普段から、ノズルやその収納口を清掃しているかどうかもわからない。
それが気になると、公衆トイレはもちろん、ホテルのトイレも安心して使えない。と思う人が多いのだろう、多くの人が外出先では温水洗浄は使用しないという調査結果もあるようだ。
外でも温水洗浄を使いたいなら、携帯用の温水洗浄を使用するしかないだろう。

指輪の部分は菌がたまる。外して手を洗わないと意味がない

手洗いの話に戻ると、手洗いでは爪の部分が気になるが、『手洗いのバイブル』には次のように書かれている。

個人差があり過ぎて標準的な目安はつかみにくいのです。最近の著者の調査では、一般生菌数2千万、カビ3万、大腸菌群(-)、病原性ブドウ球菌(-)や、著者自身の爪で一般生菌数4千、他は陰性の結果を観察しています。

指輪についても取り上げており、「指輪がけの人の手指はあきらかに汚染しています」と結論し、次のように説明しています。

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指輪をかけて手洗いしてもキレイになりません。指輪の部分の汚れが取れないのです。時には病原性ブドウ球菌がここから持続的に排菌する事実もあります。
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新型コロナウイルス予防の手洗いも、かならず指輪を外して行う必要があるようだ。

また、冒頭で触れたが、手荒れと荒れ性についても取り上げていて、「手荒れ手指は病原性ブドウ球菌が準常在菌的になっている率が非常に高い」と指摘している。

冒頭で書いたが、本書では、習慣的で無意味な「手洗い」を否定し、「目的的」で「用に応じて」の手洗いを勧めている。それが本書のミソであると思う。
本書は、独自の食事療法を病気治療や病気予防・健康増進として指導し、大きな成果を上げていたある医師に教えられた。その医師は、本書を読み、とある半日、駅の公衆トイレに入り浸り、手洗いの状況を調査した。その結果を苦笑しながら次のように語っていた。

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「排便をした後、手を洗わない人はいませんが、大半が2~3回、手を軽くこすり合わせるだけですよ」
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かたちばかりの手洗い。まったく「目的的」ではなく、ただの習慣として行っている、おざなりの行為だといえるだろう。

新型コロナウイルスは、手洗いに対する意識を高めてくれたが、本書は衛生観念と衛生のための実践法が学べる好著であると思う。

なお、最後にもう1つ、本書にある面白いネタを1つ紹介すると、男性の場合であるが、小用のときは、その前後に手を洗うとよいという。その理由は「大事なところを扱うのだから」

 

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手洗いのバイブル
著者 医学博士 西田 博 光琳

単行本: 281ページ
出版社: 光琳; 第4版 (1975/02)
言語: 日本語
ISBN-10: 477128914X
ISBN-13: 978-4771289147
1975年2月29日 第1版発行

構成
1 手洗いとは何んでしょう
2 食品企業における手洗いについて
3 目的的な手指洗浄とは何か?
4 手指の生理・解剖的ことがら
5 身近な環境からの手指汚染
6 手指の消毒薬にはどのようなものがありますか
7 著者の指導実践中の手指洗浄方法
8 手指の各種検査方法、その他
9 著者の実施中の手指のふきとり検査方法
10 簡便な手洗い消毒方法をめぐって
11 水と石けんの手洗い効果の比較
12 汚染手指の2次汚染の影響
13 ユビワと手指汚染の実態
14 手指汚染と職場の特異性
15 手指ふきとり検査による各種例
16 洗剤と手指の関係テスト
17 手荒れと荒れ性の問題
18 病原性ブドウ球菌と手指皮膚の関係
19 手指の細菌叢(ミクロフローラ)の問題
20 皮膚の代表菌、ジフテロイドとブドウ球菌について
21 合成洗剤と肌荒れ、手荒れの諸問題
22 合成洗剤の皮膚アレルギー問題
23 合成洗剤の吸収、摂取量、安全率について
24 合成洗剤と皮膚障害のアンケート
25 手にやさしい洗剤の例
26 台所用中性洗剤の正しい使用方法例
27 手洗い指導の定着しない理由

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紹介文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。