【露払い(つゆはらい)】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【露払い(つゆはらい)】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

露払いというと、相撲ファンは大相撲の横綱土俵入りで先導役を務める力士のことを思い浮かべるだろう。横綱は露払いと太刀持ちの二力士を従えて入場するが、先導役が露払いであり、横綱の後ろに控えるのが太刀持ちである。

古くは、宮中の蹴鞠の会で、まずは鞠を蹴って周囲の木の露を払うこと、また、その役目の人のことを露払いといった。
転じて、貴人の先に立って導く人の意味となり、行列などの先導をすることや、相撲の先導役をいうようになった。そこからさらに、遊芸などで最初に演じること、つまり前座も露払いというようになった。

現代の社会でも、露払い役が求められるのか、進んで露払い役を務める者がいる。
宴会や飲み会の座興でカラオケタイムになって、地位や立場が下の者が上の者に対して、
「まず課長からお願いします。十八番のサザンでもひとつ……」と、うかがい、勧めると、上司は、
「いやいや、私はあとでいいよ。それよりも君、先に歌いたまえ」
と断ってみせる。もとより、部下は自分が先に歌うべきだと承知しているが、上司を立てて、勧める。当然、部下が先に歌うことになるが、
「それではまず、私が歌わせていただきます」では、あまりにもつまらない。言葉に芸がなく、興がない。

こういう場合、
「それでは私が露払いを務めさせていただきます」とか、
「それでは私が露払いに歌わせていただきます」
と言うと、上司は上役意識がくすぐられるし、そういう言葉遣いができる部下を評価してくれるかもしれない。

「それでは不肖、山田太郎が部長の露払いを務めさせていただきます」と、へりくだって言うと、いっそう古めかしい感じが演出できる。お約束ともいえるやりとりであるが、こういう場面でのこういうやりとりは型どおりがよいし、型が醸し出す面白さもあるというもの。
露払いの用い方には、「露払いを務める」「露払いに歌う」の他に「露払いを演じる」がある。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。