【雨のにおい】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【雨のにおい】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

最寄り駅の駅前のロータリーに差しかかったとき、男子高校生が四、五人、走ってきたら、そのうちの一人が「雨のにおいがする。急げーっ」と叫んだ。
と、空は急にかき曇ってきて、すぐに雨がぽつぽつと降り始めた。

雨が降ると「雨のにおい」がするが、今まさに降ろうとするときに匂いを察知し、しかも、言葉にするのが面白いではないか。しかも、それが高校生の男の子なのだから。
ここのロータリーには、ヒマラヤ杉など木が植えられているし、植え込みがある。雨が降ると土のにおいがするが、ドクダミのにおいもする。植え込みにはドクダミが根を張っている。

「日本人は、雨が降るときのにおいを感じ取る」と、医療史研究家の立川昭二さんは著書『からだの文化史(文藝春秋)』で次のように述べている。

たとえば、雨が降ると「雨の匂い」がするという。雨そのものに匂いはないが、雨が降って木の葉などのかすかな匂いが水に溶け地面を潤すと空気中に蒸発して匂うのかもしれない。あるいは湿度が高くなると嗅覚が敏感になるのかもしれない。そんなかすかな匂いを日本人は感じとる。

冒頭の出来事に出てくる男子高校生は、今まさに雨が降ろうとするときのかすかな匂いを感じ取る鼻の感受性が豊かなのだろうか。自然を感じる感性が豊かなのだろうか。
鼻にある匂いを感じる受容体が鋭い、という科学的見方をしてはつまらないだろう。現在では、雨が降るときの匂いの正体が解明されているようであるが、そんなことを知ってもつまらないなあ、と思ったりする。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。