【名残惜しい(なごりおしい)】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【名残惜しい(なごりおしい)】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

「なごり」は「余波」「波残」の転じた語である。ある事柄が過ぎ去ったあとに、なおその気配や影響が残っていること。そのことから、別れていく人や過ぎ去る物事を惜しむこと。さらに、別れてのち、その人の面影が心に残るところから、別れを惜しむことを表すようになった。
しばらく同じ時をともに過ごすと、別れるときに名残惜しい気持ちがわいてくる。別れがたい感情が湧いてくる。なぜそういう感情が湧き起こるのか。それは「情にほだされ」「情が移る」からである。

「情が移る」とは、「接しているうちに、相手に情愛を寄せるようになる」ことで、情が移ると別れがつらく、惜しいと思う。それが「名残を惜しむ」ということである。
同じ時を過ごす、とくに寝食を共にすると相手に対して情けがわいてくる。それは日本人の一般的な情緒であるといえるようである。
日本人は欧米人と比べて、情けにほだされる傾向がある。山本兼一の『銀の島』に以下のような記述がある。『銀の島』は、戦国時代、布教のために来日したバテレンの目的が、銀が産出される出雲国を乗っ取ろうとした物語である。バテレンが日本人を評して、このように言う。

悲しげな顔をして見せると、しばらく黙っていた清左衛門が納得した顔になった。同じ騎士として同情の念を抱いてくれたらしい。この島国の男たちは、親しくなった人間に対しては、情にほだされる傾向にある。

高齢の人は、しばらく同じ時を過ごした別れ際に、「お名残惜しいですが、これでお別れです」と、自然にさらりと言うことがある。
「名残惜しい」は、相手の気持ちをこちらに惹きつけるのに非常に有効な言葉である。少しでも気持ちが動いたら、この言葉を言ってみるとよいのではないか。
また、「名残惜しいですね」と言われたら、「名残が尽きませんね」と応える。

名残を使った言葉に、「名残の宴(え)」「名残の酒」などがある。たとえば、送別会で仲間を送るときのパーティは「名残の宴」で、そこで酌み交わす酒は「名残の酒」である。送別会ではなく、「名残の宴」という言葉を使うと日本的なしっとりした情趣が醸し出される。名残の宴の場では、「名残の酒は尽きないですね」と、さらりといえるようになりたいものである。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。