【切ない(せつない)】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【切ない(せつない)】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

「切ない」は、日本人の感情を非常によく表す言葉の一つだと思う。

「切ない」は、『大辞泉』には次のような意味がある。
一、悲しさや恋しさで、胸がしめつけられる
ようである。やりきれない。やるせない。「切ない思い」
二、からだが苦しい。「ああ切ない。厭だと云うのに本田さんが無理にお酒を飲まして」
〈二葉亭・浮き雲〉
三、身動きがとれない。どうしようもない。
「詮議つめられ切なく川中に飛び込み」〈浮・武家義理・三〉

これらのうち、現代でも用いられているのは一の「やりきれない」「やるせない」心を表す場合である。
「切なさ」は、いろいろな感情が混ざった心を言い表している。たとえば、好きな異性があり、恋しくてたまらないが、相手はことらの心をまったくわかってくれない。あるいは、恋をした相手は、恋をしてはいけない関係の人だったなど。恋する相手がいることは幸せなことであるが、恋が成就しないのはつらい。それが、「切ない」ということだろう。
英語には一言で言い表す言葉はない。

プロ野球界の大スター・清原和博氏は、覚醒剤を使用し、人生に挫折した。名声も家族も失った。発覚した当時の心境を週刊文春が紹介し、次のような清原氏の言葉が載っていた。(週刊文春、平成16年2月18日号)

「五万人いる球場の打席でバットを構えるのって、どうしょうもなく緊張する。空振りしてしまうとお客さんのハァーッていうため息が全部自分に吹きかかるようで、緊張と不安で発狂しそうになる。
ドラフト、来季の契約更改、キャンプイン…
秋から冬にかけて野球関連のニュースを見ると、切なくて、覚せい剤をやりたくて止まらなくなる。
子供に会えなくて寂しくて…もうダメです」
警視庁による捜査が水面下で進んでいた一昨年の秋、清原和博(48)は親しい球界関係者に泣きながら苦しい胸の内をこう吐露していた。

大好きな野球にかかわれない、切なさ。子供に会えない切なさ。「切なくてたまらない」心情を訴えているこの告白の内容は、ファンにとって切なくてたまらなくなる。
清原氏は、「切ない」感情を豊かに持っている人である。

「切ない」は、お笑いコンビTKOの一人、大木武宏さんが次のような使い方をしていた。
「二人とも好きなんですよ。激しいタイプのコントよりも、切ないとか、情けないとかが入り交じった『せつなオモロイ』感じが」と大木。
(読売新聞夕刊、平成30年2月1日)

「せつなおもろい」という言葉がお笑い芸人のあいだで普通に使われているかどうか、寡聞にして知らないが、面白い表現である。
これをもっともよく表しているのは、渥美清さん演じるフーテンの寅さんだろうか。
寅さんは、恋をしては破れ、切ない思いをする。それを見て周りも切ない思いをするが、しかし同時に面白がる。寅さんは切ない人であるし、そのせつなオモロイは渥美さんだからできる芸だろう。

「切ない」はいろいろな使い方ができる。
作家の坂口安吾は、「せつない悲しさ」という言葉を使っている。
他にも下記のようにいろいろ考えられる。
・甘く切ない
・切ない胸のときめき
・切ない恋
・切ない胸の内
・甘く切ない響き
・きゅうんと切ない
・泣きたくなるほど切ない
・切ない恋が燃え上がる
・切ないため息(吐息)

自分が切ない思いをしているとき、切ないという言葉を使ってどのように表現するか。それにはやはり、普段から「切ない」を適切に使っている文学、小説、エッセーなどを読み、学ぶとよいだろう。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。