【つつがなく】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

【つつがなく】- 現代に使いたい日本人の感情、情緒あふれる言葉

「つつがなく(つつがなし)」の「つつが」は病気、わずらいのことで、主に「つつがなし(い)」という否定形で用いられる。
「つつがない(つつがなし)」は、「病気・災難などがなく日を送る。平穏無事であること」をいう。『語源大辞典』(堀井令以知編。東京堂出版)には、「つつがなし」は「つつみなし(障無)の変化したものという説もある」と書かれている。

「つつがなし(い)」は古くからあることばで、かの聖徳太子が随の皇帝に送った書に、
日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙なきや
と書かれている。余談であるが、みずからの国を「日が上る国」、相手の随の国を「日が沈む国」と称したと、随の皇帝はいたく怒ったと言われるが、たんに地理上の東と西をことを言っただけとの説もあるようだ。

また、有名な唱歌『故郷』」の二番に次の一節がある。

如何に(いか)に在(い)ます 父母
恙(つつが)なしや 友がき

「つつがなくお暮らしでしょう(か)」も「お変わりありませんか」も、相手の無事をうかがうあいさつことばであるが、「つつがなくお暮らしですか」のほうが、古風であるし、雅である。使わないともったいない日本語であるが、古色蒼然としており、現代では会話に用いるのは抵抗があり無理だろうが、手紙には使える。
手紙の冒頭のあいさつに、
「つつがなくお過ごしのこと(か)と存じます」
こちらの様子を伝えるあいさつとして、
「つつがなく暮らしております」
結びのことばとして、
「つつがなくお過ごしください」
というように使える。

「つつがなし」の語源については、「つつがむし」という虫からきているという説があるが誤りである。
『死の虫 ツツガムシ病との闘い』(小林照幸)によると、つつが虫という名前ができたのは明治になってからだったという。原因不明の病気が流行したが、その正体がある病原体にあるとわかり、その病原体を「つつが虫」と命名した。後にわかったのだが、この虫はリケッチアといわれる病原体だった。

「つつがなし」は、「無事に」ということがあることから、人にのみならず、いろいろな物事にも適用し、次のような言い方もされる。
つつがなく日程を終える。
式がつつがなく進行する。
旅をつつがなく終える。
つつがなく任務を完了する。

いずれも改まった言い方であることは言うまでもない。

 

文:東/茂由 ライター
1949年、山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。現代医学から東洋医学まで幅広い知識と情報力で医療の諸相を追求し、医療・健康誌、ビジネス誌などで精力的に取材・執筆。心と体、ライフスタイルや環境を含めて、健康と生き方をトータルバランスで多面的に捉えるその視点に注目が集まる。